地域社会の要請に応え、社会的役割を自覚し、時代の要求に応える一層高度な、より美しい建築と環境の共生を目指している九建設計株式会社の井上精二代表取締役社長に話を聞いた。
―事務所の紹介をお願いします
九建設計株式会社は、昭和45年4月に、株式会社日建設計の出資、支援のもと、初代の石丸久男社長・2代目の田中茂毅社長が、九州地域を中心に建築の企画・設計・監理・地域計画などを業務とする、総合的な設計事務所として設立した。
―これまでにどのような作品を手がけてありますか
金融機関の作品がメインで、西鉄関係も多い。銀行では、親和銀行福岡支店や遠賀信用金庫本部、西鉄では、香椎駅などを手がけてきた。学校関係では熊本学園大学などがある。古いものだと、福岡市の芙蓉ハイツなど。
―銀行や駅など特殊な建物が多いですね
特殊な建物の設計ノウハウはある。それよりも実績。この設計事務所だったら間違いなという実績。世間に認められる事務所は間違いのない仕事をする事だ。日建設計時代からのクライアントもいる。この関係を壊さないように真面目にやってきた。
―理念をお聞かせください
設計は誰にでもできると思う。失敗、間違いのない仕事をしていきたい。クライアントに、この設計事務所だったら間違いないと思ってもらえるような実績を残していきたい。仕事の進め方として、失敗すれば次はないと思い、危機感を持って仕事に取り組んでいる。例えば、設計の当初の段階において、設計内容を細部にわたって見落としが無いよう詰めに詰めている。そうすれば後々、問題は出てこない。クライアントには、その時点で、しっかりと、十分に説明するようにしている。議事録もきちんと作り、打ち合わせを行なっている。後で揉め事にならないように気を付けている。クライアントとの信頼関係を壊さないよう、信頼してもらえるよう、まじめに取り組んでいく。
―設計については
外観や意匠なども重要だが、それよりも、きちんとした機能性を持ち、管理しやすく、寿命が長い建物を造っていくようにしている。そういう意味では、現場監理が重要であり、現場で間違いが起きないようにしなければならない。監理は設計事務所が関与できる最後の砦。もし、設計が間違っていても、監理がしっかりしていれば現場でなんとか修正できる。しかし、設計が間違っていなくとも、監理の段階で間違えると、取り返しがつかないことになる。監理はたいへん重要で、しっかりとやらないといけない。そのため、当社では設計の者が現場で監理するようにしている。今も切れずに、クライアントから仕事の引き合いがきているのは、失敗が少ないからだと考える。一度でも失敗したら、これまでの信頼関係が切れてしまう。
―現場の状況はどうですか。高齢化が進んでいるようですが
業界では、新築工事が少ないので、若い人が育っていない。基礎、杭打ち、躯体、内装、外装など、すべての工程を体験できる場が少なくなってきている。私が現場に出ていた頃には、建設省の役人で、仕様書を熟読している人がいた。いろいろと勉強させてもらった。現場所長の考え方もあるが、よいものを作ろうと、ゴミひとつ落ちていない現場もある。所長によって、現場は全然違うものになる。作業環境がきれいであれば、事故も起きない。
―今は新築工事より、改修やリフォームなどが多いようですが
昔の建物の改築には、図面が無いことがある。古い図面があれば、CAD化できるが、無いとどうしようもない。CADは二次元の平面なので、奥行きがつかみにくい。昔のように手書きだと、奥行きまで考えて絵を描いていたから問題はなかった。今の施工図は、平面で捉えているので、現場ではたいへんだ。設計は経験をつまないとできない仕事。絵ができたとしても、実現するかどうか。うまくいくとは限らない。若い人には、そのあたりのことを考えて、経験を積んでほしい。
―ところで、PFIについて、どうお考えですか
今のところ、まだ考えていない。PFIはもちろんのこと、プロポーザルやコンペについても、けっこう費用と手間がかかる。それよりも、民間ベースで、お客様を大事にして仕事をしていく方向で進めていきたい。失敗しない限り、仕事は続いていくと思う。せっかく営業して開拓したのに、一回失敗してしまうと、クライアントを失ってしまう。お客様を大事にして、喜んでいただける設計をしていきたい。
―施工業者については
当社には業者会は無い。施工業者の見極めは大切で、施工業者のランクで、如実に建物の出来合いが違ってくる。相応の施工会社を選んでいかないと、よい建物はできない。当社では、現場所長や現場代理人に履歴書を提出してもらい、経験があるかどうか見ている。どこの現場でも20業種社くらいの出入りはあるので、工程管理がきちんとできるのか確認する。工程の管理は大切だ。
―スタッフについて
社員は多い時には26人いた。昔みたいに右肩上がりだったら、社員を雇えるが、今は補充でしか採用していない。現在の技術者数は一級建築士7名、建築技術者2名、設備技術者1名。構造は外注している。昔は社内に置いていたが、今は大きな物件がなく、定年退職で欠員が出てもそのままにしている。構造スタッフを雇っても物件が重なると、外注しなければならないので、今は外注しているが、クライアントからちょっとした相談があるときに困るので、構造担当者とは連絡を密にしている。
―今後の展望について
クライアントは、金融関係が多いが、もう少し他業種のエリアにも手を広げていきたい。うちでは、トップセールをやってきたが、これからも継続して、クライアントの信頼を得られるよう、まじめに営業していく。
―最後に
県の建設工事紛争審査会の委員や福岡県建築士事務所協会で苦情担当などの職を務め、いろいろな住宅問題を見てきた。クライアントが建設費を削り、建物をつくろうとすると、寿命は短くなる。たたいて安く造ると、いつまでもつのか分からない。結果として「安かろう、悪かろう」となる。設計事務所も施工業者も企業なので、利益をきちんと取らないといけない。安い物件だと技量の低い職人を集めるしかない。その辺りのことをクライアントにも理解してもらいたい。それと、良い物を作っても、後のメンテナンスをきっちりとやらなければならない。造りっぱなしでは、良い物も保たない。設計事務所としては、私達の業務に課せられた社会的役割を自覚し、時代の要求に応える一層高度な、より美しい建築と環境の共生を目指し、地元の方々との一層の密着を図り、地域社会の要請に応えていきたい。
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